バッファー(緩衝液)の作り方

バッファー(緩衝液)の作り方

本記事は株式会社テトラメディアのサイエンスライターが作成しました。

生化学実験で使用するバッファー(緩衝液;Buffer Solution)の調製方法をまとめています。

なるべく安く、pH調整をせずに済む作製方法を掲載しています。

1mol/L トリス塩酸バッファー(Tris-HCl buffer)

1M トリス塩酸緩衝液の作り方です。

使用する試薬:
1. トリス(Tris, CAS No. 77-86-1, NH2C(CH2OH)3
 市販品例:富士フイルム和光純薬#203-06272, 関東化学# 40326-00, 東京化成#A0321, MERCK#T1503-25G

2. 35-37w/w%(12N, 12mol/L)塩酸(Hydrochloric Acid, CAS No. 7647-01-0, HCl)
 市販品例:富士フイルム和光純薬#080-01066, 関東化学#18078-00, MERCK#13-1683-5-500ML-J

作り方(1L):
1. 121.14gのトリスを800mL精製水に溶かします。
2. 下表を参考に目的のpHに応じて35-37w/w%塩酸を少しずつ加えます。
3. 精製水で液量を1Lにします。
4. 冷蔵か室温で保管します。オートクレーブできます。

目的のpH(25℃)加える塩酸の量(mL)
7.276.10
7.569.10
8.048.30
8.523.90
9.08.25

参考文献:AppliChem(2018)Biological buffers.

 

50mmol/L トリス塩酸バッファー(Tris-HCl buffer)

50mmol/L トリス塩酸緩衝液の作り方です。

使用する試薬:
1. トリス(Tris, CAS No. 77-86-1, NH2C(CH2OH)3
 市販品例:富士フイルム和光純薬#203-06272, 関東化学# 40326-00, 東京化成#A0321, MERCK#T1503-25G

2. 1mol/L(1N)塩酸(Hydrochloric Acid, CAS No. 7647-01-0, HCl)
 市販品例:富士フイルム和光純薬# 081-01091, 関東化学#18591-08, 東京化成#H1202, MERCK#H9892-100ML

作り方(1L):
1. 6.057gのトリスを900mL精製水に溶かします。
2. 下表を参考に目的のpHに応じて1mol/L 塩酸を少しずつ加えます。
3. 精製水で液量を1Lにします。
4. 冷蔵か室温で保管します。オートクレーブできます。

目的のpH(25℃)加える塩酸の量(mL)
7.145.7
7.244.7
7.343.4
7.442.0
7.540.3
7.638.5
7.736.6
7.834.5
7.932.0
8.029.2
8.126.2
8.222.9
8.319.9
8.417.2
8.514.7
8.612.4
8.710.3
8.88.5
8.97.0

参考文献:AppliChem(2018)Biological buffers.

0.1mol/L りん酸緩衝液, pH5.8-8.0(Sodium phosphate buffer)

0.1M りん酸バッファーの作り方です。りん酸ナトリウム緩衝液とも呼ばれます。Sorenson’s buffer(ソーレンセンバッファー)として知られています。

りん酸水素二ナトリウム・12水和物りん酸二水素ナトリウム・2水和物の混合比率を変えて目的のpHに合わせます。

使用する試薬

ストック溶液(1L)の作り方

0.2mol/Lりん酸水素二ナトリウム溶液と0.2mol/Lりん酸二水素ナトリウムを作製します。

  • 0.2mol/L りん酸水素二ナトリウム溶液の作り方(A液)
    71.64gのりん酸水素二ナトリウム・12水和物を800mLの精製水に溶解し、精製水で全量を1Lにします。これをA液とします。
  • 0.2mol/Lりん酸二水素ナトリウム溶液の作り方(B液)
    31.21gのりん酸二水素ナトリウム・2水和物を800mLの精製水に溶解し、精製水で全量を1Lにします。これをB液とします。

0.1mol/L りん酸緩衝液, pH5.8-8.0の作り方(100mL)

I. 作製したA液とB液を下表のに従って混合した後、 精製水で全量を100mLにします。

目的のpHA液, mLB液, mL
5.84.046.0
6.06.1543.75
6.29.2540.75
6.413.2536.75
6.618.7531.25
6.824.525.5
7.030.519.5
7.236.014.0
7.440.59.5
7.643.56.5
7.845.75 4.25
8.047.352.65

参考文献:
The University of Oklahoma:Phosphate Buffer (Sorenson’s buffer) pH 5.8-8

酢酸/酢酸ナトリウムバッファー(Acetate buffer)

酢酸(ナトリウム)緩衝液の作り方です。

使用する試薬:
1. 酢酸(Acetic Acid, CAS No. 64-19-7, CH3COOH)
 市販品例:富士フイルム和光純薬#014-00266, 関東化学# 01021-01, ナカライテスク#00211-95, 東京化成#A2035

2. 酢酸ナトリウム三水和物(Sodium Acetate Trihydrate, CAS No. 6131-90-4, CH3COONa・3H2O)
 市販品例:富士フイルム和光純薬# 195-01065, 関東化学#37092-01, ナカライテスク#31114-15

ストック溶液の作り方:
I. 0.1mol/L 酢酸(ドラフト内で使用してください)
1. 精製400mLに酢酸5.7mLをゆっくり加える。
2. 精製水を加えて全量1Lにします。

II. 0.1mol/l 酢酸ナトリウム
酢酸ナトリウム三水和物13.6gを1Lの精製水に溶かします。

作り方(200mL):
下表を参考にストック溶液を混合します。

参考文献:
Delloyd’s chemistry resources, reagents and Instrumentation.

3mol/L 酢酸ナトリウムバッファー, pH5.2(Sodium Acetate buffer)

3M 酢酸緩衝液の作り方です。

使用する試薬:

1. 酢酸ナトリウム三水和物(Sodium Acetate Trihydrate, CAS No. 6131-90-4, CH3COONa・3H2O)
 市販品例:富士フイルム和光純薬# 195-01065, 関東化学#37092-01, ナカライテスク#31114-15

2. 酢酸(Acetic Acid, CAS No. 64-19-7, CH3COOH)
 市販品例:富士フイルム和光純薬#014-00266, 関東化学# 01021-01, ナカライテスク#00211-95, 東京化成#A2035

作り方(100mL):
1. 酢酸ナトリウム三水和物40.8gを精製水90mLに溶かします。
2. 酢酸を少しずつ加えながらpHを5.2に調整します。
3. 精製水を加えて全量を100mLにします。

参考文献:
Leicester University Pathology Department Contracts

1xD-PBS, pH7.4

細胞培養で使用されるダルベッコ PBS(Dulbecco’s PBS)の作り方です。

使用する試薬:

1. りん酸二水素カリウム(Potassium Dihydrogen Phosphate, CAS No. 7778-77-0, KH2PO4)
 市販品例:富士フイルム和光純薬#167-24685, Merck(Sigma-Aldrich)#P5655-100G, ナカライテスク#28720-65

2. 塩化カリウム(Potassium chlorid, CAS No. 7447-40-7, KCl)
 市販品例:富士フイルム和光純薬#169-03542, Merck(Sigma-Aldrich)#P9333-500G, ナカライテスク#28513-85

3. 塩化ナトリウム(Sodium chloride, CAS No. 7647-14-5, NaCl)
 市販品例:富士フイルム和光純薬#191-01665, Merck(Sigma-Aldrich)#S7653-250G, ナカライテスク#31319-45

4. りん酸水素二ナトリウム無水(Disodium Hydrogenphosphate, CAS No. 7558-79-4, Na2HPO4)
もしくは、りん酸水素二ナトリウム12水和物(Disodium Hydrogenphosphate 12-Water, CAS No. 10039-32-4, Na2HPO4・12H2O)

5. りん酸水素二ナトリウム無水
市販品例:富士フイルム和光純薬#195-02861, Merck(Sigma-Aldrich)#S7907-100G, ナカライテスク#31726-05

6. りん酸水素二ナトリウム12水和物
市販品例:富士フイルム和光純薬#192-02832, Merck(Sigma-Aldrich)#28-3720-5-500G-J, ナカライテスク#31722-45

作り方(1L):
1. 下表に従い、各成分を800mLの水に溶かします。
2. 溶解後、1Lに水でフィルアップします。
3. すぐに使わない場合はオートクレーブして保管します。

成分名分子式CAS No.必要量(1L作製)
りん酸二水素カリウムKH2PO47778-77-00.2g
塩化カリウムKCl7447-40-70.2g
塩化ナトリウムNaCl7647-14-58.0g
りん酸水素二ナトリウム無水
(もしくはりん酸水素二ナトリウム12水和物)
Na2HPO4
(Na2HPO4 · 12H2O)
7558-79-4
(10039-32-4)
1.15g
(2.90g)

1mol/L HEPESバッファー(HEPES buffer)

1M HEPES緩衝液の作り方です。

使用する試薬:
1. HEPES(2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid, CAS No. 7365-45-9, C8H18N2O4S)
 市販品例:同仁化学#GB10, Merck(Sigma-Aldrich)#H3375, 東京化成#H0396

2. 10mol/L 水酸化ナトリウム溶液(10N)(Sodium Hydroxide, CAS No. 1310-73-2, NaOH)
 市販品例:ナカライテスク#94611-45

作り方(1L):

  1. 800mLの精製水に238.3gのHEPESを加えて溶かします。
  2. 10N水酸化ナトリウムを少しずつ加え、目的のpHに調整します。
  3. 精製水を加え、全量を1Lにします。

参考文献:
AAT Bioquest:HEPES Buffer (1 M, 7.5 pH) Preparation and Recipe

50x TAEバッファー(TAE buffer)

50×TAEバッファーの作り方です。

使用する試薬:
1. トリス(Tris, CAS No. 77-86-1, NH2C(CH2OH)3
 市販品例:富士フイルム和光純薬#203-06272, 関東化学# 40326-00, 東京化成#A0321, MERCK#T1503-25G

2. 酢酸(Acetic Acid, CAS No. 64-19-7, CH3COOH)
 市販品例:富士フイルム和光純薬#014-00266, 関東化学# 01021-01, ナカライテスク#00211-95, 東京化成#A2035

3. 0.5mol\L EDTA, pH 8.0(エチレンジアミン四酢酸; Ethylenediaminetetraacetic acid)
 市販品例:ニッポンジーン#311-90075, 同仁化学#MB01, ナカライテスク#06894-14

作り方(1L):
1. 242gのトリスを700mLの精製水に溶かします。
2. そこへ57.1mLの酢酸と100mLの0.5mol/L EDTA, pH8.0を加えます。
3. 精製水を加え、全量を1Lにします。

備考:pHはおよそ8.5です。pHを調整する必要はありません。室温で保管します。

参考文献:
Protocols.io:Recipe for 50x TAE buffer

0.5mol/L EDTA溶液, pH8.0

0.5M EDTA, pH8.0の作り方です。

使用する試薬:
1. EDTA・2ナトリウム・2水和物(Ethylenediaminetetraacetic acid disodium salt dihydrate, C10H14N2Na2O8 · 2H2O, CAS No. 6381-92-6)
 市販品例:東京化成#E0091, ナカライテスク#15111-32

2. 水酸化ナトリウム(Sodium hydroxide, NaOH, CAS No. 1310-73-2)
 市販品例:富士フイルム和光純薬#192-18861, 関東化学#37184-00
 あるいは5-10mol/L 水酸化ナトリウム溶液
 市販品例:ナカライテスク#94611-45, 富士フイルム和光純薬#194-09575, 関東化学#37902-08

作り方(1L):
1. 800mLの精製水へ186.1gのEDTA・2ナトリウム・2水和物を加えて攪拌します。完全には溶けません。
2. そこへ水酸化ナトリウムの粉末か溶液を加え、pHを8.0にします。EDTA・2ナトリウム・2水和物が溶解するまで攪拌します。
3. 精製水を加え、全量を1Lにします。

10×TEバッファー(TE Buffer)

10xTEバッファーの作り方です。

使用する試薬:

作り方(100mL):

  1. 1mLの1mol/L トリス塩酸バッファー, pH8.0 と0.2 mLの0.5mol/L EDTA溶液, pH8.0 を混合します。
  2. 精製水で全量を100 mLにします。
    備考:滅菌する場合は121℃で 15 分間オートクレーブします。室温か冷蔵で保管します。

10×TBEバッファー(TBE Buffer)

10xTBEバッファーの作り方です。

使用する試薬:

作り方(1L):

  1. 108gのトリスと55gのホウ酸をビーカーに入れます。
  2. 40mLの0.5mol/L EDTA溶液, pH8.0をビーカーへ添加します。
  3. 500mL程度の精製水を加えて溶解し、精製水で1Lにします。
    備考:室温で保管します。

0.1mol/L クエン酸バッファー, pH3.0-6.2(Citrate buffer)

pH別の0.1mol/L クエン酸緩衝液の作り方です。
0.1mol/L クエン酸と0.1mol/L クエン酸ナトリウムの比率でpHを調整します。

使用する試薬:

ストック溶液の作り方(1L):

  1. 0.1mol/L クエン酸
    21.01gのクエン酸一水和物を800mLの精製水に溶解し、精製水で全量を1Lにします。
    室温か冷蔵で保管します。3か月以内の使用を推奨します。
  2. 0.1mol/L クエン酸ナトリウム
    29.41gのくえん酸三ナトリウム二水和物を800mLの精製水に溶解し、精製水で全量を1Lにします。
    室温か冷蔵で保管します。3か月以内の使用を推奨します。

0.1mol/L クエン酸バッファーの作り方(100mL):

作製した0.1mol/L クエン酸と0.1mol/L クエン酸ナトリウムを下表に従って混合します。

目的のpH0.1mol/L クエン酸, mL0.1mol/L クエン酸ナトリウム, mL
3.082.018
3.277.522.5
3.473.027.0
3.668.531.5
3.863.536.5
4.059.041.0
4.254.046.0
4.449.550.5
4.644.555.5
4.840.060.0
5.035.065.0
5.230.569.5
5.425.574.5
5.621.079.0
5.816.084.0
6.011.588.5
6.28.092.0

参考文献:
http://www.mystrica.com/Pages/Applications/citratebuffer.pdf

0.1mol/L 炭酸-重炭酸バッファー(Carbonate-Bicarbonate Buffer)

pH別の0.1M 炭酸-重炭酸緩衝液の作り方です。重炭酸とは炭酸水素ナトリウムのことです。

0.1mol/L 炭酸ナトリウムと0.1mol/L 炭酸水素ナトリウムを作製し、目的のpHに応じて混合比率を変えます。

使用する試薬

ストック溶液の作り方(1L):

  • 0.1mol/L 炭酸ナトリウム溶液
    10.6gの炭酸ナトリウムを800mLの精製水に溶解し、精製水で全量を1Lにします。
  • 0.1mol/L 炭酸水素ナトリウム溶液
    8.4gの炭酸水素ナトリウムを800mLの精製水に溶解し、精製水で全量を1Lにします。

0.1mol/L 炭酸-重炭酸バッファー作り方(200mL):

1. 目的のpHに合わせ、下表を参考に0.1mol/L 炭酸ナトリウム溶液と0.1mol/L 炭酸水素ナトリウム溶液を混合します。

2. 混合液に精製水を加え、全量を200mLにします。

目的のpH0.1mol/L 炭酸ナトリウム溶液, mL0.1mol/L 炭酸水素ナトリウム溶液, mL
9.24.046.0
9.49.540.5
9.616.034.0
9.822.028.0
10.027.522.5
10.233.017.0
10.438.511.5
10.642.57.5
Carbonate-Bicarbonate Buffer


参考文献:
protocols.io:Carbonate-Bicarbonate Buffer.

酢酸アンモニウム緩衝液(Ammonium acetate buffer)

10mM 酢酸アンモニウムバッファー(Ammonium acetate buffer)の作り方です。

主にHPLCの移動相で使用されます。

使用する試薬

10mmol/L 酢酸アンモニウム緩衝液作り方(1L)

  1. 770.8mgの酢酸アンモニウムを800mLの精製水に溶解します。
  2. 酢酸を少しずつ加えながら目的のpHに合わせます。
  3. 0.2μmのフィルターでろ過します。
  4. 精製水で全量を1Lにします。

参考文献:
Dicel:INSTRUCTION MANUAL FOR CHIRALPAK® CBH COLUMN

炭酸水素アンモニウム緩衝液(Ammonium hydrogen carbonate buffer)

炭酸水素アンモニウムバッファー(Ammonium hydrogen carbonate buffer)の作り方です。重炭酸アンモニウム緩衝液(Ammonium bicarbonate buffer)とも呼ばれます。主にHPLCの移動相で使用されます。

■使用する試薬

■炭酸水素アンモニウム緩衝液(Ammonium hydrogen carbonate buffer)の作り方

  1. 下表を参考に目的のモル濃度に必要な量の炭酸水素アンモニウムを秤量します。
  2. 秤量した炭酸水素アンモニウムを800mLの精製水に溶解します。
  3. ぎ酸を少しずつ加えながら目的のpHに合わせます。ぎ酸ではなく水酸化アンモニウムでも構いません。
  4. 0.2μmのフィルターでろ過します。
  5. 精製水で全量を1Lにします。
目的のモル濃度炭酸水素アンモニウムの量
5mmol/L0.40g
10mmol/L0.79g
20mmol/L1.58g
100mmol/L7.91g

20xSSCバッファー, pH7.0(Standard Saline Citrate buffer)

SSCバッファーは、ノーザンブロットやサザンブロット、ハイブリダイゼーションで使用されます。

■使用する試薬

■20xSSCバッファー, pH7.0の作り方(1L)

  1. 175.3gの塩化ナトリウムと88.2gのクエン酸三ナトリウム二水和物をビーカーに移し、800mLの精製水に溶解します。
  2. 1mol/L(1N)塩酸を1滴ずつ加えながらpHを7.0にします。
  3. 精製水で全量を1Lにします。
  4. オートクレーブで滅菌します。室温保管します。

参考文献:
OpenWetWare:SSC