サイエンスライター(Science Writer)は、読者に科学の面白さや研究トピックを伝える職業です。
しかし、日本ではそれほど一般的な仕事ではないため、サイエンスライターになる方法は不明瞭です。
- 何から始めれば良いかわからない
- 仕事内容を知りたい
- 原稿の書き方がわからない
- 報酬単価を上げたい
これらのような疑問を持つ方へ、本記事ではサイエンスライターになるための具体的なステップから始め、原稿の書き方や報酬の上げ方を紹介します。
本記事を読んで、サイエンスライターになるための一歩を踏み出しましょう。
サイエンスライターとは?
サイエンスライターの役割は、「科学を読者にわかりやすくかつ正しく伝えること」あるいは「ある事象を科学的に説明すること」です。
ある研究成果を書籍やニュースで一般の人向けに解説することもあれば、最近の研究トレンドを研究者に紹介することもあります。
その分野は、医療・健康、環境科学、宇宙科学、ロボティクス、化学、物理学、心理学、科学史など多岐に渡ります。
サイエンスライターになるための4ステップ
サイエンスライターになる手順です。
1.専門分野を決める
2.必要な知識・技術の習得
3.ライティング練習とサンプル記事作成
4.仕事を受注する・実務経験を積む
順番に説明します。
専門分野を決める
サイエンスライターになるためには、まず自分の専門分野を決めましょう。
自分が興味を持ち、「人にこの面白さを伝えたい」と思えるような分野があれば決まりです。
あるいは、すでに専門分野がある人はその分野から始めましょう。
必要な知識・技術の習得
サイエンスライターに必要な知識・技術は次の2つがあります。
- 専門分野の知識
- ライティングの技術
専門分野の知識
まずは専門分野の知識を深めましょう。書籍や論文を読んで学びます。
また、最新の研究動向や技術的な変化についても常にアップデートすることが重要です
ライティングの技術
専門分野だけではサイエンスライターにはなれません。
読者にわかりやすく伝える技術も必要です。
科学の分野では、専門的で複雑な概念や用語が頻繁に使用されます。サイエンスライターはこれらを一般の読者が理解できるように、簡潔で明瞭な言葉に変換する能力が求められます。
また、科学的な記事は読者が退屈に感じてしまうことがあります。ライティング技術を身に付けることで、科学をエンターテインメントにように面白く、魅力的に伝えることができます。
ライティング技術のマニュアル本やテクニック本は市販されていますので、まずは1-2冊読みましょう。
ライティングの基本を理解できたら、実際に著名なサイエンスライターが書いた記事や書籍を分析しながら読んでみましょう。
実践を想定したライティング練習とサンプル記事作成
ライティングの知識を学んだ後は実際に書いてみましょう。
実際にライティング依頼が来たことを想定し、書き始める前に以下の2点を設定しましょう。
- 執筆する記事の目的(依頼者の目線)
- 想定読者(読者の目線)
執筆する記事の目的とは:依頼者の目線
サイエンスライターに記事執筆の依頼が来るとき、その記事には必ず依頼者の目的があります。
例えば記事で「国際宇宙ステーションの必要性を伝えたい」などです。
この例を目的とした場合、読者が記事を読んだ後に「国際宇宙ステーションの存在価値を知らなかったが、もっと予算を増やすべきだ」「宇宙開発事業へ寄付をしよう」など、考え方や行動に変化があれば理想的です。
そうなれば依頼の目的を達成できたと言えるでしょう。
記事の目的を設定することで、依頼者の目線に立ったライティングが可能になり、何を訴求すべきか具体的になります。
想定読者とは:読者の目線
サイエンスライターは想定される読者によって書き方を変えなければなりません。
高校生が読む記事と研究者が読む記事では書き方は大きく異なります。
前提知識がない人が読者なら、専門用語、英単語(カタカナ表記含む)、代名詞をなるべく減らし、図や具体例を増やします。
一方、知識がある専門家が読者なら、専門用語を使った方が端的に説明でき、英単語(カタカナ表記含む)を無理に和訳すると逆に何のことかわかりにくくなります。
書き始める前に想定読者を決めておきましょう。
書いた原稿はサンプルとして使おう:できればウェブに公開する
記事が書けたら、記事の冒頭に”記事の目的”と”想定読者”をメモして残しておきましょう。
この記事は仕事を受注するときに、サンプル記事として使用しますので、記事を捨てたり失くしたりしないでください。
依頼者は、あなたに執筆を依頼するかどうか決める判断材料として、過去に書いた記事やサンプル記事を求めます。何種類かサンプル記事を持っておくと仕事を受注しやすいです。
依頼者の中には、すでに納品済みで依頼者のウェブメディアや雑誌に公開されているあなたの記事だけではなく、あなたが個人的に執筆したサンプル記事を要望する人もいます。
この理由は、納品済みの記事は依頼者側の編集者が加筆・修正している可能性があり、それではライターの実力がわからないからです。
サンプル記事がいくつかできたら、できればポートフォリオとしてウェブに公開しましょう。
ポートフォリオとは、スキル、経験、実績を具体的に示すための成果集や資料のことです。自分の能力や成果を示すために使います。
ウェブに公開するメリットは2つあります。
1つ目は、サンプル記事を要望されたときにURLを送るだけで良い点です。
ファイルを送るよりも簡単です。また、クラウドワークスやランサーズなどクラウドソーシングサービスに登録するときも、プロフィールに記事例としてURLを貼っておけます。
2つ目は、ウェブに公開されている記事例を見た人から仕事の依頼が来る可能性があることです。
そのため、公開記事には連絡先も記載しておきましょう。
ウェブは自分で制作する必要はありません。noteなど無料ブログで十分です。
仕事を受注する・実務経験を積む
最初の仕事の受注は簡単ではありません。1本も仕事が来ないケースもあります。
ほとんどの人は、サンプル記事を作成し、クラウドソーシングサービスに登録して終了です。
しかし、そこで終わってはいけません。自分をライターとして売り込みましょう。
サイエンス系メディアを運営している会社に寄稿を打診する
会社の問い合わせフォームから寄稿を打診しましょう。
寄稿なので無料になってしまいますが、著者としてあなたの名前が掲載されます。これも実績です。
運が良ければ掲載してもらえ、記事内容が気に入ってもらえればその会社から仕事の依頼が来ます。
サイエンスライターを募集している求人に応募する
サイエンスライターに限定した求人はあまりありませんが、あれば積極的に応募しましょう。
業務委託なら副業としてでも学生でも構わないという会社は少なくありません。
また、サンプル記事の内容が良ければ初心者でも問題ないケースもあります。
サンプル記事をたくさん書いてSNSで発信し続ける
X(旧ツイッター)やFacebookでサイエンスライター用のアカウントを立ち上げ、そこでサンプル記事を発信し続けましょう。
依頼主はSNSでサイエンスライターを探すことがあります。
また、わざとエンターテインメント系の面白いテーマの記事を書いて投稿し、もしそれが話題になれば執筆依頼が来るかもしれません。
一般的なライターの案件も受ける
サイエンスライティングの仕事がないとき、通常のライティング依頼を受けるのもひとつの手です。
サイエンスライティングよりも報酬単価は低くなりますが、案件数は多いため仕事を見つけやすいです。
ライティングの実践経験にもなりますし、依頼主とのやり取りも経験できます。
サイエンスライターになるためのネットワーク
サイエンスライターとしてのネットワーク(人脈)も構築できるとより仕事を得やすくなります。
機会があれば業界の人と交流を持つようにしましょう。
科学者や研究者との関係構築
科学分野の専門家や研究者と人脈を築くことで、最新の研究成果やトピックに関する情報を入手できます。
また、専門家や研究者は、企業から執筆依頼を受けることがあるため、そこからライティングの仕事を紹介してもらえたり、企業にライターとして紹介してもらえることがあります。
同業者との交流
他のサイエンスライターとの交流を通じて、仕事の紹介を受けたり、業界の情報を入手できます。
ライターのコミュニティに参加したり、ワークショップや講座を受講することで接点を作れます。
サイエンスライターの仕事内容
サイエンスライターの役割と執筆の流れを説明します。
サイエンスライターの役割
科学知識の普及
サイエンスライターは、複雑な科学的概念や研究結果をわかりやすく説明し、一般の人々が科学の概念や事象を科学的に理解できるようにします。
最新の科学研究の報道
科学者や研究機関が発表した最新の研究成果を紹介します。研究結果の要約や解説、研究が社会にどのように役立つかを説明します。
専門知識の提供
専門的な知識を持つ読者向けに、詳細で正確な情報を提供します。これには、科学者や専門家向けの記事やレビュー記事があり、専門分野の最新動向を伝える役割も果たします。
科学コミュニケーション
科学の面白さをわかりやすく魅力的に伝えます。科学が身近で理解しやすいものとなります。
教育的役割
科学教育用の教材の一部を作成します。学校教育向けの教材やサイエンススクールの教材があります。
公衆衛生や政策の情報提供
公衆衛生や政策に関する問題を科学的に説明します。環境や医療の課題を扱うことが多いです。
批評と分析
科学的な研究や技術の倫理的、社会的影響について批評し、読者に問題提起します。科学技術の進歩が社会に与える影響を説明します。
サイエンスライターの原稿執筆の流れ
大まかな執筆の流れを紹介します。
1. 目的とテーマ設定
2.リサーチと情報収集
3.アウトラインの作成
4.初稿の執筆
5.レビューとフィードバック
6.編集と校正
7.最終稿の提出
1.目的とテーマ選定
記事を書く目的と記事テーマを決めます。多くの場合は依頼主から提示があります。
2.リサーチと情報収集
書こうとするテーマに関連する学術論文や書籍を読みます。
どの文献にどのような記述があったかメモにしてまとめておきましょう。原稿を執筆するときに文献の引用が楽になります。
場合によっては、専門家へインタビューすることもあります。
3.アウトラインの作成
記事構成の全体像を作成します。
できればこの時点で依頼主に記事構成案を共有し、了承を得てから執筆を開始しましょう。依頼主と記事内容のイメージを一致させておくことで、的外れな原稿にならないようにします。
4.初稿の執筆
執筆作業です。リサーチした文献を使いながら、目的に沿った記事を作成します。
5.事前のレビューとフィードバック
初稿が完成したら、誤字脱字をチェックし、依頼主に仮納品します。
サイエンスライターとして初心者の時期は、できれば初稿を納品する前に誰かに読んでもらい、フィードバックをもらいましょう。フィードバックに沿って記事を修正したら依頼主へ仮納品します。
6.依頼主のレビューとフィードバック
依頼主から初稿のフィードバックを受けます。フィードバックの内容に沿うように記事を修正・変更します。
もう一度記事全体の校正を行います。
場合によっては、依頼主のフィードバックと修正が数回行われます。
7.最終稿の提出
納品です。事前に契約で取り決めた期日までに報酬が支払われます。
サイエンスライターのキャリア
サイエンスライターを職業として考えたとき、フリーランスライターと会社員ライターがあります。
両者の違いをを紹介します。
フリーランスライターと会社員ライターの違い
フリーランスのサイエンスライター
本業が別にある人や学生などはフリーランスとして活動することになります。
自由度の高い働き方ができる
- 作業時間と場所の自由:
フリーランスは、仕事の時間や場所を自由に選べるため、自分ライフスタイルに合わせた働き方が可能です。 - 仕事の選択:
自分の興味や専門分野に合わせて仕事を選ぶことができます。仕事量も自分でコントロールできます。
収入が不安定になりやすい
- 収入の変動:
常に依頼があるわけではないため、収入は不安定になりがちです。多くのクライアントを持つことが重要です。
スキルアップしたり、有名になることで報酬単価が増えます。 - 営業の必要性:
特に、サイエンスライターになりたての頃は自分でクライアントを見つけなければなりません。営業活動が必要です。
会社員のサイエンスライター
出版社、新聞社、ライティング会社、テレビ制作会社などにサイエンスライターとして社員になるケースもあります。
収入が安定している
- 安定した収入:
毎月決まった給料を受け取ることができ、経済的に安定しています。ボーナスや昇給の機会もあります。 - 福利厚生:
健康保険や年金、休暇制度などの福利厚生が整っているため、安心して働くことができます。
仕事の内容と責任
- 仕事量は安定:
会社から仕事が与えられるため、仕事量は安定しています。仕事の選択に自由度は少ないですが、継続的な仕事が保証されています。
サイエンスライティング以外の業務もあります。 - 組織の一員:
同僚や上司とともに仕事を進めるため、フリーランスライターよりも関わる人間が多くなります。
キャリアパスと成長機会
- 昇進とキャリアパス:
会社内での昇進やキャリアパスが明確であり、長期的なキャリアの見通しが立てやすいです。
一方で、昇進すると管理職になることが求められ、自分でライティングする機会はほぼなくなります。 - 教育とトレーニング:
会社が提供する教育プログラムや研修を受ける機会があり、専門知識やスキルを身に付けられます。
フリーランスライターと会社員ライターでは、それぞれの働き方に応じたメリットとデメリットがあります。どちらがおすすめというわけではありません。
フリーランスは自由度が高い一方、収入は不安定になりやすいです。自分で仕事を取らないといけません。
会社員は、安定した収入と福利厚生がありますが、仕事の自由度は少なく、チームでの協力が求められます。また、出世するとライティング業務は減っていき、チームの管理が主な業務になっていきます。
必ずどちらか決めないといけないわけではなく、会社員からフリーのサイエンスライターへ独立する人もいます。
文字単価・記事単価を上げる
フリーランスのサイエンスライターになり、より多くの収入を得ようとする場合、文字単価あるいは記事単価を上げなければなりません。
文字単価とは1文字あたり、記事単価は1記事あたりの報酬金額です。
サイエンスライターとして駆け出しのタイミングでは、単価を上げようとする必要はありません。むしろ、報酬が低くても仕事を受注して実績を作りましょう。
文字単価を上げるのは、仕事が取れるようになった後でよいです。
以下は単価を上げる方法です。
- 専門性を高める
特定分野の専門知識を深めることで、より価値のある記事を作れるようになります。○○の分野のライターならXXさんと認識してもらえるようになると成功です。 - スキルを高める
文章力を鍛えるのはもちろんですが、きれいな図表を作れたり、SEO対策(ウェブ検索結果の上位に表示させる施策)を意識した記事を書けるようになりましょう。 - 執筆実績を増やす
自ら営業して1本でも受注実績を作りましょう。依頼主はこれまでの実績を重要視します。たくさん仕事を受注しているライターは、その実績を評価されて次の仕事の依頼が来ます。 - 依頼主と直接契約する
実績ができてきたら、企業から直接案件を取れるようにしましょう。クラウドソーシングサービスは便利ですが、ライターが受け取れる金額は少なくなります。直接取引になるだけで報酬はアップします。 - 記事内容を自ら提案する
依頼主へ記事内容を提案しましょう。事前に需要のあるテーマや記事内容をリサーチし、依頼主へ提案営業しましょう。依頼主の業務を代行するイメージです。
サイエンスライターになるためのよくある質問(FAQ)
サイエンスライターとは何をする職業ですか?
サイエンスライターは、科学や技術に関する情報を人々にわかりやすく伝える仕事をします。科学雑誌、ウェブサイト、新聞、書籍などの媒体で記事を書くことが主な業務です。
サイエンスライターになるためにはどんな分野のどんな学歴が必要ですか?
サイエンスライターになるためには、科学分野(例えば、生物学、化学、物理学)やコミュニケーション系の学位が役立ちますが、必須ではありません。
また、修士もしくは博士の学位が望ましいですが、学士(学部卒)でサイエンスライターをしている人もいます。
サイエンスライターになるためにはどんなスキルが必要ですか?
サイエンスライターには、次のようなスキルが必要です。
- 科学的な知識
- 効果的なコミュニケーション能力
- リサーチスキル
- 執筆と編集のスキル
- 批判的思考と分析能力
サイエンスライターの仕事を見つけるにはどうしたらいいですか?
サイエンスライターの仕事は、科学雑誌、新聞、ウェブサイト、企業の広報部門、研究機関などで見つけることができます。また、フリーランスとしての仕事も多くあります。求人やクラウドソーシングサービスで探して見ましょう。
サイエンスライターは具体的にどんな依頼がありますか?
以下のような案件があります。
- ニュース記事:事件や研究成果を科学視点で解説します。
- 特集記事: 学術系雑誌や企業の刊行誌への掲載です。
- 広報: 研究者の研究成果を発表するプレスリリースの原稿を作ります。
- 書籍: 本の原稿執筆です。
- 脚本:科学系動画やイベントの台本を作成します。
まとめ
サイエンスライターを目指すには、以下の順番で進めましょう。
1.専門分野を決める
2.必要な知識・技術の習得
3.ライティング練習とサンプル記事作成
4.仕事を受注する・実務経験を積む
サイエンスライターとしての仕事だけで十分な年収を得るのは難しいですが、研究者や研究経験者が副業として挑戦する価値は十分にあります。
是非一歩を踏み出してください。